源流の装備

源流での装備を紹介します。

沢登りの道具は、汚れるし焚き火の匂いがつくし、とにかく消耗が激しいので、基本的に使い古しのものや、安く買えるものが良いように思います。



「沢靴」

沢登り用のラバーソールを使います。

現行モデルでは、モンベルかキャラバンのほぼ2択になります。

フェルトソールはヌメリには強いのですが、高巻きや藪漕ぎ、登山道の下りなどでは弱いです。

ラバーソールはヌメリには弱いのですが総合力ではフェルトソールに勝ります。

ただラバーソールは滑りやすい岩質やヌメリの時には水の中で突然滑るので、体勢を立て直すのに相当な瞬発力が必要になります。そのあたりに自信がない方は、フェルトソールも良いと思います。


「チェーンスパイク」

ここ数年、チェーンスパイクを持たずに源流に行くことはありません。本来は冬山のアプローチや、凍結した林道などで使うべきものですが、誰かが泥付きや草付きの急斜面に極めて有効なことを発見しました。

個人的にはロープは持たなくてもチェーンスパイクは必ず持っていきます。

しかし本格的な雪山はちゃんとしたアイゼンを使って登りましょう。

履いたまま藪漕ぎをするとかなりな確率で紛失しますので、落下防止の紐をつけたらそれを沢靴に縛って使います。


「パンツ」

低水温のときはネオプレーンタイツ、夏はファイントラックのタイツを履いています。

その上に登山用の雨具を履いたりしています。

ネオプレーンは保温力は勝りますが濡れないときが暑苦しく、また乾きにくいです。

ファイントラックは速乾性にとても優れています。

焚き火で着干しすればそのままパジャマにもなります。


「上着」

泳ぐときはファイントラックを着ています。

水量が多くないときは薄手のソフトシェルを着ています。

滝などでシャワークライミングになる時は雨具のジャケットを着ます。


「ウェットスーツ」

積極的にたくさん泳ぐ源流に行く時にはパタゴニアのウェットスーツ、2mm厚の半袖短パンのワンピースなどを着ています。

足首まであってノースリーブのワンピースも良いと思います。ちょっと用足しがしにくいですが膝が曲げやすく歩きにも支障ないです。



「雨具」
雨具のジャケットはGORE-TEXのものが軽くて動きやすくてよいでしょう。
パンツはどうせ濡れますので、ワークマンのものでも充分です。
よほど気温が高くない限りは雨具のパンツを履いて沢を歩いています。


「ソックス」
モンベルやキャラバンなどのネオプレーンソックスを履いています。
水温が低いときは厚手のネオプレーンソックスを履くのがよいです。
真夏は薄手のものでもよいでしょう。
泊まり場でくつろぐ時の乾いた靴下も忘れずに。
脛当ては使う人と使わない人がいます。
沢慣れないうちは脛当てがあっても良いでしょう。
脛当てはファスナーで止めるものがずれにくくて良いです。
膝まであるタイプのものは安心感がありますが、流れの強いところに行くとずり落ちてしまうことが多いようです。


「ザック」

体に合うものならなんでもよく、底に水抜の穴を開けています。

焼いた鉄串で何ヶ所か穴を開けてください。

背面にはまな板用のベニヤ板と焚き火用の網と、同じく焚き火用のうちわを入れておくとよいです。

あまりシャンクの弱すぎるザックだと背中に中のものが当たってゴロゴロします。

泊まりの沢旅なら45L以上のものが良いでしょう。


「焼き網」
必要です。これがないと「炙る」という調理法がやりにくいのです。100円均一のもので良いので、ならした薪の上に置いてその上に鍋を置けば、鍋の安定感も増します。

「うちわ」
必要です。雨の日や、木が濡れていたりする日の焚き火には特に必要です。乾いた空気を大量に送り込む必要があるからです。
紙のうちわは沢で泳ぐと濡れてすぐにボロボロになるので、ビニールテープなどで防水補強しています。
最近、キャプテンスタッグに全面プラスチック製のうちわが存在することが発見されました。風情はないですが、その丈夫さから今や一択と言えます。

「まな板」
調理にはまな板が必要です。5mm程度のベニヤ板を使っています。ペニャペニャとしなる樹脂製のものは魚をおろすには不向きです。ささくれると嫌なので角はグラインダーなどで磨いて滑らかにしておきます。


「ストック」

竿を出さないときは、沢では常にストックがあるとよいです。

徒渉でも、段差を降りるときでも、行く手の邪魔してる蛇を放り投げる時にも重宝します。

カーボンは沢登りのような不整地では折れやすいのでアルミの4ピースに折りたためるタイプが良いです。小さくなって懐にも仕舞いやすく、またすぐに出すことができます。個人的には長さの調節機能も不要かなと思っています。


「防水バック」

シュラフや着替えなど濡らしたくないものはモンベルやシートゥーサミットなどの防水パックで防水してください。

普段は耐水圧の低いものでも良いですが、泳ぐ時は浮き輪代わりにもしますので厚手のものが良いです。

シートゥーサミットのストッパーというモデルの各サイズを愛用しています。

スマホや地図もしっかり防水しましょう。

ちなみに大型厚手のビニール袋は、中からはすぐには漏れないのですが外からは水が入ります。口もきっちり絞められないので浮き輪にはなりません。かつ侵入した水が抜けないので中身はびしょ濡れになります。


「焚き火缶」
現在購入できる軽量なアルミ製の焚き火缶はほぼ一択です。
2名までならSとM、3名以上ならLサイズが必要になります。
毎回煤で汚れるので金属繊維の入ったスポンジタワシを持ち歩くと良いでしょう。
取手のワイヤーは使ってるうちにすぐに取れやすくなります。ピアノ線などの少ししなやかな素材のものに換えると具合が良いです。

「水の袋」
安全圏に張ったタープから、いちいち水を沢まで降りて汲みに行くのは、酒に酔った足元には危険です。少なくとも夜の食事の水汲みは一度で終わらせたい。しかしお茶を飲んだりうどんを洗ったりするとプラティパスでは容量が足りないのです。
ダイソーに5Lの水袋が売られるようになったのは数年前です。持ち運びのグリップもついており言う事なし、案外丈夫です。水を入れたままザックに入れることもないので多少漏れても心配なし。怪しげな英語が書いてありますがまあ気にしないです。


「竿」

柔らかい竿ケースの中に数本の竿を一緒に入れてザックにつけています。

テンカラは360cm、仕舞い寸法52cmがスタンダードです。

上流部メインならこれに330cmや300cmを、下流部が長いなら390cmなどを追加します。

ルアーロッドは仕舞寸の小さい振り出しのものを、リールは当然ハイギアがよいでしょう。

堅い竿ケースだと安心ですが、入れられる竿の本数に限りがあります。ロッドの先端をよく折るので気をつけます。リールは雨蓋に入れておくと良いです。

フライロッドは仕舞寸から考えてやはり6本継が良いでしょう。4番にするか3番にするかは渓相によります。リーダーは11フィートが中心、ティペットは4Xです。大渓流では15フィートも忍ばせます。


「釣具」

小さなポーチに全て納めています。

毛鉤20個、ミノーやスプーン5個くらいを常に補充しています。

ラインの予備、リーダーやティペット、フロータントなども各自の好みに応じて持ちます。

偏光グラスもあるといいですね。

ランディングネットは日帰りの時は持ちますが、泊まりの時は省略します。


「タープ」

源流ではタープの横で焚き火というスタイルです。テントは使いません。テントは拒絶と防御の姿勢の表れですが、タープは開放と寛容の精神を備えています。

川の流れを見ながら、川で水を汲み、口を嗽ぎ、霧に巻かれ、雨の気配を感じます。

タープは3人までならアライのLサイズ、またはモンベルのLサイズがおすすめです。

2人だけならアライのMサイズ、モンベルのMサイズでも良いでしょう。

タープの六方に4-5mほどの張り綱(2mm程度のパラコードなど)を自在パーツをつけて取り付けます。

ロープをメインの梁にして、周囲の木を利用してタープにテンションをかけます。

近くに都合の良い木がいつもあるとは限らないので張り綱を長くしておくと融通が効きます。

4人以上の時はMサイズを2枚、L字形あるいは焚き火を挟んで対面するように張ります。

タープの中心線をメインのロープに固定できるように、おもちゃのカラビナと2mmのヒモなどで巻き結びできるようにしておきます。


「シート」
焚き火の前にシートを広げて使っています。その方が食材などを気にせずマットの周りに置けます。なくても問題ありませんが、あれば野生圏と文化圏を分けることができます。
1人だと180cm四方くらいのものを使っています。素材は軽ければなんでもよく、子供が遠足の時に使っていたピクニックシートなどで良いでしょう。またはテント用のシートなどが落ち着きがあって良いと思います。焚き火の火の粉で穴だらけになりますが、特に支障ないのでずっと同じものを使っています。


「マット」

前述の薄い大きなシートを敷き、その上にクローズドセルのマットを広げてくつろぎます。

強者はマット無しで落ち葉を敷き詰めて寝ます。

モンベルのマットは比較的薄手で、畳んだ時も分厚くならないので良いように思います。私は焚き火の延焼でこれを燃やしてしまったことがあるので、気をつけてください。

エアマットの寝心地は素晴らしいもので、嵩張らないのでありだと思いますが、焚き火の火の粉で穴を開けないように注意しなければなりません。

私は最近、エバニュー Trail mat 100 を座布団代わりに、寝る時はその上にモンベルのエアマット 90cmを使っています。

軽量で快適な組み合わせだと思います。



同じ理由から薄手のシュラフカバーもあるといいでしょう。


「虫除け」
焚き火を焚けば虫はあまり寄って来ません。しかし夏場の日本海側の沢では藪蚊が大量に発生します。
蚊取り線香を背後で炊いたり、蚊帳をタープの張り綱に吊るしたりして寝ます。アウトドア用の蚊帳は床ありと床なしがありますが、床なしの方が出入りしやすいです。石などを頭の上に置いて蚊帳の四方のテンションを維持します。
ハッカの虫除けは効果があります。
真夏のメジロの大発生を覚悟の上で、奥只見や下田河内などに入渓するときは、必ず顔に被るネットを持っていきましょう。


「鋸」

薪集めや酷い藪漕ぎには鋸が必須です。

鋸はグリップ部分が刃に対して角度がついているものが使いやすいです。刃は木材用ではなく生木用のものを選んでください。鞘がとても重要です。鞘にはロック機能がついていると、藪漕ぎ中に鋸を紛失しにくいのです。

折り畳みのものは収納は良いのですが、作業性に劣ります。刃先だけ交換できるものが良いです。私は玉鳥産業 SELECT250替刃 生木 という製品を愛用しています。かなり激しく使うので秋になると切れなくなります。なのでシーズン始めに刃を交換します。


「包丁」
包丁は鋼の切れるものを。ステンレス包丁は切れ味に劣ります。しかし泳ぐような沢登りでは、包丁を拭うタオルや包丁の鞘など、どうしても色々なものが濡れてしまうため、鋼の包丁は錆びてしまいがちです。
私は有次のA合金鋼というペティナイフを使っています。いわゆる鋼よりも錆びにくく、ステンレスよりもはるかに長く切れ味が続きます。ズボラな人はステンレスのペティが良いですが、魚の骨をたくさん切るとすぐに切れなくなります。
あとは山菜やキノコ採り用に折り畳みの小型ナイフなどを持っています。


「ハーネス」

軽量簡易なハーネスがよいです。マムートの Zephir Altitude、またはペツルのアルティチュードというハーネスなどがおすすめです。あまりに軽すぎるハーネスは腰に食い込んで乗りにくいです。フリークライミング用のものは水を吸って重くなります。



「調理」

まな板は5mm厚のベニヤ板を活用します。

イワナは少しだけ、刺身、あぶり、タタキ、ナメロウ、天ぷらなどで頂きます。

おいしい塩、醤油、わさび、それにニンニク、生姜、願わくばネギと大葉は必須です。薬味のない人生は平坦すぎます。

天ぷらをやるならオリーブ油と小麦粉を追加します。

ナメロウをやるにはマルコメの味噌、玉ねぎ、ごま油も欠かせません。

沢では水と火はいくらでもありますので、主食は生米、うどんは乾麺が中心です。


「軍手」
焚き火に薪をくべたり、焼き網を持ったりするのに必要です。安いナイロン製のものはすぐに溶けるので必ず綿の軍手を使います。綿の軍手はナイロン製より少し高いです。

「フライパン」
炒めるという料理には必須になります。焚き火で直にフライパンを使いたい時にはユニフレームのものを愛用しています。樹脂パーツがないので焚き火でも溶ける心配がありません。焚き火缶のMとLの間にシンデレラフィットで収納できます。ただあまり強火で使うとすぐに痛みます。それを敬遠してガス缶とガスヘッドを持っていくならいわゆるアウトドア用のものでも良いと思います。

「ゴミ」
ビニール製品は最後にまとめて焚き火で燃やしてしまいます。焚き火は食事に使うものなので調理中などには決して燃やさないようにします。少しでもアルミが入っているゴミ、特にスティックコーヒーやお茶などの包装は必ずアルミ部分が燃え残るので燃やさないようにします。
燃え残ったアルミ製品が散乱している焚き火跡は無惨です。焚き火が好きならば後始末に美学を持ってほしいものです。

「着火剤」
焚き火は現地で乾いた小枝をたくさん集められればライターだけで簡単に起こすことができます。
しかし源流ではいつも乾いた小枝があるとは限らないので、あらかじめ着火剤を用意しておきます。固形燃料を持っていると緊急時の湯沸かしなどもできるので最近はそれをもっぱら使っています。

「米」
沢には水と火はたくさん手に入るので、生のお米を炊きます。アルファ米は沢には似合わないようです。お米は数時間ほどの浸水時間があると良いのは家庭と同じです。水の量は鍋いっぱい、米が2合でも4合でも水の量は鍋いっぱいです。鍋の蓋に握り拳くらいの石を乗せて焚き火にかけると、やがて沸騰した湯が吹きこぼれ焚き火を濡らしますが構わずほっておきます。そのあたりで弱火になってちょうど良いのです。米の炊ける香りが漂い始め、しばらくするとそれがわずかにコゲの匂いに変わります。これは鍋を鼻の近くに持ってこないとわかりません。その時に鍋からおろし5分ほど蒸らします。私の場合は、米は六分つき程度に精米して持参しています。

「シャンプー」
長期の沢登りでは焚き火で沸かしたお湯で頭を洗います。案外快適です。

「ハンマー」または「ピッケル」
本来ハーケンを打つシーンで最も必要ですが、実際は寝床の整地の際に、埋まっている石を動かしたり草木を引き抜いたりすることに主に使われています。これがないと「破壊」という行為ができません。
ミゾーのハンマー「ロカ」を長年愛用しています。雪渓がいくつもある、または草付きの急斜面が多いことが予想される時はペツルのガリー45cmを使っています。ペツルのガリーは非常に軽くて優秀なアックスで、近年は一年中使っている感じがします。

「ロープ」
これは非常に悩ましい問題です。単純に、何がいいですか?と聞かれても困ってしまいます。
積極的な登攀を志すならクライミングロープを当然持つべきです。シングル規格の9mm以上の太いロープを持つ人は沢ではなかなかいないので、おそらく8mm前後のダブルロープを選ぶことになるでしょう。これの難点は水を吸うと非常に重くなることです。
滝は巻きます、基本的にロープは懸垂下降中心という釣り師であれば山道具屋さんにドラムで売っている7mmのコードでも良いと思います。ただしこれらのロープは完全に製造物責任範疇外の使用方法になるので自己責任で使う必要があります。安価である、水をあまり吸わないという利点があります。当然なことですがクライミングロープのように衝撃を吸収する性能は無いので滝の登攀には適しておりません。ロープ操作には熟練が必要です。これの難点は水に沈みやすいことです。
ガンガン泳ぐ沢であればファイントラックのフローティングロープが良いでしょう。後続を引っ張るにも水に浮かぶので、ゴルジュの底にある岩や木の根に絡まることもありません。ただしこのロープで懸垂下降を行うことは完全に製造物責任範疇外なのでやはり自己責任で行うこと。
それ以外にタープ張り用に6mmロープを10mほど持つことがあります。
以上のようにロープの選び方はかなり難しいのです。そしてロープの長さですが、易しめの沢であれば30m、滝登りや高巻きが何回かあるのであれば40m、大高巻きが有うるなら30mを2本、大渓谷は40mを2本という感じで持つようにしています。50mというのは出し入れの使い勝手が悪いので、源流釣りではあまり持たないです。

プロテクション(カム)
Black DiamondのCamalot Z4が軽量性、携行性に優れています。セット時はブレずに安定し、セット後はフレキシブルに動きます。沢でよくある、奥まで続いていないポケット状のクラックや、水平方向でオフセットしたクラックにもよく効きます。滝が多く出てくる源流では#0.75から#0.2くらいまでをザックに忍ばせます。現代ではスモールカムが非常に発達したためハーケンの出番は少なくなりました。カムの使用には、トラッドクライミングに対する理解と熟練が必要です。道具を買えばすぐ沢で使えると考えるのは間違っています。岩場に行って経験者と共にクライミングの練習をしてください。