古色蒼し
この標識は私が初めてここにきたときもあったのを覚えている。
当時はこの場所にはこの標識しかなかった。
ずいぶんと久しぶりにこの場所に来て、すでに風景の一部と化しているこの標識を見つけ、心の重低音が響くような感じがした。
近くには近年建てられたであろう少し稚拙な印象の標識があり、こちらはあたりを構わず自己を主張している。
このところ続いた訃報が思い出され、あたりを覆う濡れた苔の充実に、過ぎ去った時が漂うようだった。
それは幾星霜を経たものだけが持つ、痩せて乾いて整った輪郭であり、あるいは燻されて艶を帯びた表情である。
その時の流れの中には、沢山の言葉や想いが、ゆったりと流れ続けている。
私たちには、手の平にわずか水を掬うことしかできない。
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