犬と氷

犬を連れて雪山へ行く。
今では雪山に犬がいなければ寂しいくらいだ。
しかし今日の目的は氷登りだ。
さすがに犬とて岩壁や氷は登れない。
我が家のユキは氷の下で私たちの帰りを待っている。
昨年までは私たちの姿が見えなくなるといつまでも鳴いた。
今年は鳴かずに待っていられるようになった。
氷を登ったら降りてくることを学習したのかもしれない。
縦横無尽に腹を擦りながらラッセルもするし、新雪をムシャムシャと食べてむせたりもしている。
氷を登り終えて上から覗いていたら、ごく小規模な雪崩が取り付きの谷に流れ込んだ。
日が当たればそうなるだろうとは思っていたし、埋まるほどの規模は持たないこともわかっていた。
だが犬のことを忘れていた。
フォローするパートナーに聞く。
「ユキ、埋まってない?」
「見えるよ」
安心した。
雪崩から転がる雪玉を追いかけて走り回ったりしているのだろう。
その晩は、今は使われなくなった小屋の食堂にテントを張って寝た。
ユキはガソリンコンロの炎が嫌いなのでテントには近づいてこない、相変わらず外のお堂の回りをぐるぐる回ったりしている。
暗くなり食堂の隅に古ぼけた座布団を敷いてやるとそこの上で丸くなった。
帰路はいくつか橋を渡らなければならないのだが、雪がてんこ盛りになった細い橋もユキにとっては恐怖らしい。
私たちが通ったあとにひとしきり寂しそうに鼻で鳴いてから、意を決して脇目も振らずに渡ってくる。
車も近くなったところで不意に林道からどこかへ消えた。
数秒後、突然吠え始めたかと思うと私の20m後ろからカモシカがすごい勢いで飛び出してきて林道を横切り消えた。
すぐに後ろからユキが走ってきて「今の見ました?」というような顔でこちらを見る。
ユキよ、今日は鉄砲は持っていない、しかもあいつは獲ってはいけないカモシカだ。
不思議そうにこちらを見ながら、車に戻っても繋がられるのを嫌がって、大木のウロの陰に隠れてふて寝していた。
首根っこを掴んでカゴに放り込むと丸くなって、ドッグフードを豆みたいにカリカリと食べ始めた。
足の裏もよく見たがシモヤケにもならなかった。
雪山には犬がよく合う。

源流と雪山ガイド「霧の旅」

源流ネイティブトラウト テンカラ:ルアー:フライフィッシング アイスクライミング 雪山:狩猟 ガイド

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