焚火と月

ゴルジュがやっと途切れた。17時。
斜面の切り開きの石をならして、三人がなんとか横になれる平らを作り火を起こす。
川床までは5mほどあるだろうか、狭いことには狭いが周囲の草の様子から、増水にはまず耐えうるだろう。一晩分の薪もなんとか集まる。生木を少し拝借してタープの支柱とする。魚がきれいに腹を洗われてまな板の上に並ぶ。
レモネードに少し焼酎を滴して飲み始める。
いつも行動を共にしている仲間たちなので特に会話はなくとも淡々とことは進む。同時に蚊も集まり始める。線香が焚かれる。幾度もの泳ぎを交えた溯行の末に、線香を乾燥状態で持ち運べたのはただ事ではないことを、三人ともが語らずとも知っている。
南東だけがわずかに開けたこの場所で、満ち始めた月が山の端から私たちを照らした。ヘッドライトの灯りは蚊を集める、焚火の火だけで手元を済ませる。
沢の夜で月見ができることは実はあまりない。樹林の下で寝ることがほとんどであるし、おおよそ渓の空は狭い。地形と仰角と月の満ち欠けが偶然に合致した珍しい夜だったと思う。ということは、下山して写真を整理していて気がついた。
炎と月。僕たちはふたつの異なる光を交互に眺め続けた。炎の陰影の向こうにはなにがあるのだろう。月は僕らの胸のうちまでをやさしく照らしている。淡い光と渓の音、なにごとも語られぬ夜があってもいい。

源流と雪山ガイド「霧の旅」

源流ネイティブトラウト テンカラ:ルアー:フライフィッシング アイスクライミング 雪山:狩猟 ガイド

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